「Mのカード画」
僕は幼少期に、溺れて死にかけたことが二度あるんだ。一度目は畑に立埋めされていた土管に落ち、万歳したような姿勢で身動きできず、溜っていた僅かな汚水のせいで窒息しそうになったこと。二度目は、近くの川へ一人で遊びに行き、岸辺に溜っていた大小様々色とりどりのボールを採ろうとして枯れた芦原を歩いていたところ、倒れて寝た芦によって隠されていた川面に突然落ち、溺死しそうになったこと。
突然水中に落ちて恐ろしいのは、想像以上に深く落ちることと、必ず水を飲むことだ。飲んだ水は厄介なことに気管支に入る。この時に起きる咳込むという反応が、さらに水を飲みこませ、パニック状態になって溺れるんだと思う。
一度目の事故で僕が救われたのは、焼けつくような痛みに耐え、この咳込みを我慢できたこと。何故かといえば、この土管の用途に問題があり、溜っていた汚水は絶対飲んではいけないものだったからだ。この我慢もほんの数舜で済んだ。落ちてすぐには鼻と口を没していた汚水も、たちまち冬の厚着した衣服に吸い込まれ、どうにか息継ぎが出来るようになった。泣きながら家に戻っても、車庫にすら入れてもらえず、伸ばしたホースから出る冷たい水で、長時間洗われた記憶は忘れられない。
二度目の事故から生還出来たのは、一度目の経験があったからだ。あの時もし咽ていたら、僕はここにはいない。
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